君の手が道しるべ
「なっ、なんでそんなことがわかるのよ!」

「あ、やっぱりそうだったんですか。相変わらずわかりやすい人ですね」

 さすがにここまで言われては黙っていられない。落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせ、私は大倉主査をにらみつけた。

「向いてないものは向いてない。どうせ、大倉主査だってそう思ってるでしょ。契約に持っていくこともできないくせに、大口商材ぶっ壊す、使えないやつだって」

「……別に、思ってませんけど」

「いいよ、そんなことで気を使ってくれなくても。だって私がそう思ってるんだもの。自分のこと、使えないって」

 言ってしまうとなんだか楽になった。使えない。できない。それを自分で認めるのが悔しいから、必死に努力してきたのだと今ならわかる。

 大倉主査はじっと私を見ていたが、突然、ふっと息を吐いた。それが、私が初めて聞いた、大倉主査のため息だった。

「……じゃあ、仕事、辞めますか? いっそのこと」

「え?」

 急な提案に、私はびっくりして聞き返したが、大倉主査は黙ったままでビールを飲んでいる。皮肉かと思ったけれど、どうもそうではないらしい。なぜそんなことを言い出したのか、真意をはかりかねていると、大倉主査が突然言った。

「僕、今期末で退職します」

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