君の手が道しるべ
「昔ならそれでよかった。でも今は違う。マネジメントのスケールはものすごく小さくなって、世の中のことより目の前のお金、人間の暮らしを大きな流れで見ることもなくなった。……もちろん、ライフデザインの面からマネジメントする機会だってあるけど、結局私たちはノルマにしばられてるから、本当の意味でのマネジメントはなかなかできなくなった。求められてないマネジメントを押しつけられて、お客様はどう思う? 大倉主査だったらどうする?」

 大倉主査はなにも答えない。ただ黙って私を見ている。

「太田さんだってそうだよ。あの人は今、マネジメントなんて必要としてなかった。……いや、たぶん、必要なんだけど、それは今じゃないと思うの。もっと時間が過ぎて、必要だって気づいた時に改めて提案する。それじゃダメなの?」

「——ダメなんじゃないですか。僕たちの仕事はマネジメントです。『必要性に気づかせる』ことも、マネジメントです。時間が過ぎて、って、それはいつですか? そのタイミングを、調査役は絶対に見逃さないと断言できますか?」

 はっきりと言われて、私は今度こそ返す言葉がなかった。

 大倉主査の言うことは圧倒的に正しい。私たちが必要と信じるものを、お客様に提案する。それは間違いなく正しいし、それこそが今の私たちに求められているものだと思う。

 でも、私は、信じきれないのだ。喜ばれる自信も、役に立つ自信も持ちきれない。梨花のようにはできない。史子のようにも、彼のようにも。

 黙り込んだ私に、大倉主査がふっと笑って言った。

「わかりました。調査役がこの仕事に向いてない理由」

< 54 / 102 >

この作品をシェア

pagetop