君の手が道しるべ
「えっ? なに、その理由って」

「簡単ですよ。調査役はね、真面目すぎるんですよ」

 私はまた返す言葉がなかった……と言うより、今度はなんと言ったらいいのかわからなくなってしまった。
 自分のことを真面目だなんて思ったことはない。

 劣等感のかたまりで、どうしようもないやつだとは思うけれど、真面目すぎるなんて、そんな要素がいったい私のどこにあると言うのだろう。

 そもそも真面目だったなら、こんな、考えてもしょうがないことでうだうだと悩んだりはしないはずだ。

「真面目な人ほど、この会社はつらいと思います。だから調査役が仕事に限界を感じて当然だと、僕は思います。……だから」

 ひと呼吸置いて、大倉主査が言った。

「会社辞めて、僕と一緒にNYに行きませんか?」


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