君の手が道しるべ
「どうしたんですか? 調査役、朝よりなんか顔が死んでますけど」

 ぎくっとしてほおを押さえ、私は栞ちゃんを見る。

「し、死んでる? そんなにひどい……?」

 栞ちゃんが歩み寄ってきた。私の顔を心配そうにのぞき込み、

「朝より青ざめてます。せっかく、大口契約取れたのに、あんまりうれしそうじゃないし……なんかあったんですか? あ。もしかして」

 小声で言って視線を向けた先には、とげとげしいオーラ全開の梨花がいた。こちらを見ようともせず、パソコンの画面を凝視している。私は苦笑して首をふった。

「違う違う。深読みしすぎ」

 でも、栞ちゃんはさらに声を落としてささやいた。

「本当に大丈夫ですか? ――藤柳さん、調査役が出かけてからずっと不機嫌であんな感じなんですよ。それで調査役が大口契約とってきちゃったもんだから、もう、私、怖くて近づけません」

 あんまり真顔で言うので、私はなんだかおかしくて笑ってしまった。
 
 ため息をひとつついて、顔の前で手を振る。

「大丈夫。いくら彼女だって、栞ちゃんのこと取って食ったりしないから」

「そうですかねぇ? ……食われそうな気がしますけど」栞ちゃんがにやりと笑う。「でも、調査役、ほんとに大丈夫ですか? 何かあったんなら話聞きますから。私でよければ言ってくださいね」

「うん、ありがとう。――でも、ほんとに大丈夫だから」

 それでようやく安心したように栞ちゃんは私の席から離れていった。
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