君の手が道しるべ
それにしても。

 誤解というかなんというか。
 思い込みの激しい性格なのか、はたまた自分の思いどおりにならないことが耐えられない性格なのか。

――親にだってあんなに怒鳴られたことないなあ。

 アニメの台詞にそっくりなフレーズが頭に浮かび、思わず自分でも笑ってしまう。文字通り両目がつり上がり、悲鳴のような声で怒鳴りまくった梨花の姿を思い出すと、なぜかさらに笑えてくる。

 太田さんの契約を私に取られたというのは、まあ、梨花の性格からしても腹が立つだろうとは思うけれど。

 大倉主査のことに関しては、あそこまで怒鳴られるいわれはない。

――大倉主査があんたみたいな女を好きになるわけない、か。

 梨花の言葉がよみがえり、私は自嘲気味のため息をついた。
 
 そんなの、私がいちばんそう思っている。

 梨花ぐらい、自分に自信があれば、悩まないかもしれないけれど、私にはそんな自信はこれっぽっちもないのだ。いくら考えても、悩んでみても、そもそもまるで現実とは思えないのだから、現実的な結論を出せという方が無理だと思う。
 
 どうしたらいいんだろう。
 再び頭を抱えそうになったその時、背後から静かな声が聞こえた。

「……僕のせいですよね、今の」

 はじかれたように振り向いた私が見たのは、申し訳なさそうな顔でフロアに立ち尽くしている大倉主査の姿だった。

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