君の手が道しるべ
「まわりの人より優れてないと、その人のこと好きにならないんですか? 背が高いとか、顔がいいとか、仕事ができるとか、金持ちだとか、何かないと好きにならないんですか?」

 ぽんぽんと矢継ぎ早に質問をぶつけられ、私はますますぽかんとしてしまった。

 けれど、目の前にいる大倉主査は、明らかに私の答えを待っているようだ。

「優れてなきゃ好きにならない、ってことはないけど……でも、少なくともなにかしら気になるポイントがあって、それで相手を好きになるんじゃないの……?」

 ようやくなんとかそれだけを絞り出したけれど、大倉主査の質問攻めはそれで終わらなかった。

「じゃあ、いま、僕が調査役を好きになったポイントをいちいち聞いて、納得したら受け入れようとか、そんなふうに考えてるんですか?」

「……そんなわけ、ないよ」

 そう答えるのが精いっぱいだった。

 と、いうか。

 大倉主査の最後の問いと、それに対する自分の答えの意味を、その時はまだちゃんとわかっていなかった。

「それなら、迷うことも悩むこともありませんよね?」

 まるでいたずらっ子のように、大倉主査はにっこりと笑った。

「僕が永瀬調査役を好きなのは、あなたがあなただからです。だから、調査役も、僕を好きになってください。だって、僕は、あなたが好きなんですから」
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