君の手が道しるべ
段飛ばしガールズトーク。
「どうしたのよ、酒ナシで話したいなんて。なんかあったの?」

 日曜日の午前中、私は史子を呼び出した。

 付き合いの長い私たちだけど、ここ最近はいつも居酒屋やバーで会うことが多くなっていて、休みの日に顔を合わせるのは本当に久しぶりだった。

 その上、私から「酒ナシで真面目な話がしたい」などと呼び出されたら、さすがに史子も不審に思ったらしい。すぐに待ち合わせ場所に現れたのだった。

「ごめんね、急に呼び出したりして」

 私がそう言うと、史子は「あー、それは全然平気だから。どうせ、一日ひまだからさ」と軽く笑って向かいの席に座った。化粧っ気もなく、ラフなジーンズ姿なのに、元が華やかな美人の史子はどうしても人目を引く。
 こういう美人のほうが、大倉主査には——未来の社長夫人には、ふさわしいんじゃないだろうか。

 そんなことを考えていると、史子は手にしたカフェオレのカップをテーブルに置くなり、単刀直入にこう言った。

「男?」

 一瞬言葉につまったが、すぐに私は気を取り直して史子を軽く睨む。

「そういう言い方してると、ほんとに彼氏できないんだからね」

「いいのいいの、私はこれで」肩をすくめる仕草ですら華があるのに、口を開けばこの調子だ。「別に男がいないと生きていけないわけじゃないもん。——で? あんたは、そうじゃないんでしょ? 何があったのよ」

「それがね……」

 興味津々といったふうに身を乗り出してきた史子に、私はぼそりと、「プロポーズされた」と、言った。

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