君の手が道しるべ
私はそう前置きしてから、大倉主査との一件を話して聞かせた。
バーに現れて暴言を吐いていった梨花については「負け犬の遠吠え、ざまあ見ろってとこね」と満足げだったが、太田さんの一件について聞き終えたときには、さすがにどう答えていいのかわからないようだった。
「大倉主査が……あの、大手総合商社の次期社長?」
「……そうみたい」
「で……あんたが、その次期社長の嫁になるの?」
「いや……なると決まったわけでは……」
しどろもどろになっていると、史子は不意に口をつぐんだ。腕組みをしながら、何かを考えているようだ。
「普通、それだけのVIP先から新入行員が入るときって、配属店にそれなりのお達しが出るはずなのよね」
いつもの切れ者に戻った史子は首をかしげ、
「大倉主査の配属店には、その頃知り合いがいたから、そういう情報が入ってこないとは思えない。だいたい人事の噂大好きなウチの社内で、そんな話が今まで誰の耳にも入ってこなかったことが不思議なのよ」
と、情報通らしい感想を口にした。
バーに現れて暴言を吐いていった梨花については「負け犬の遠吠え、ざまあ見ろってとこね」と満足げだったが、太田さんの一件について聞き終えたときには、さすがにどう答えていいのかわからないようだった。
「大倉主査が……あの、大手総合商社の次期社長?」
「……そうみたい」
「で……あんたが、その次期社長の嫁になるの?」
「いや……なると決まったわけでは……」
しどろもどろになっていると、史子は不意に口をつぐんだ。腕組みをしながら、何かを考えているようだ。
「普通、それだけのVIP先から新入行員が入るときって、配属店にそれなりのお達しが出るはずなのよね」
いつもの切れ者に戻った史子は首をかしげ、
「大倉主査の配属店には、その頃知り合いがいたから、そういう情報が入ってこないとは思えない。だいたい人事の噂大好きなウチの社内で、そんな話が今まで誰の耳にも入ってこなかったことが不思議なのよ」
と、情報通らしい感想を口にした。