君の手が道しるべ
「まあ、大倉主査のお母さんは亡くなってるって話だし、私の幼なじみみたいな確執はないかもしれないけどさ」史子が少し口調を軽くして言った。「で、香織はどうしようと思ってるの? 結婚したいの?」
「——わかんない」
正直に言ってしまってから後悔した。こういうはっきりしない態度を、史子は何よりも嫌うのを思い出したからだ。
けれど、意外にも、史子は怒りもせず、ふむふむとうなずいて見せたのだった。
「まあ、香織の性格上、こういう話にはっきりYES、NOを言うのは無理よね。どうしたらいいかわからなくて、ひとりで悶々と悩んだあと、とりあえず私に相談してみようと思いついたってところでしょ」
「……その通り、です……」
素直にうなずいた私に、史子は「で?」と語尾を上げた。
「で? って、何が……」
「決まってるでしょ? あんたは大倉主査のことどう思ってるの? それが基本じゃない?」
まっとうな意見を真正面からぶつけてくる。
「まさかとは思うけど、『自分のこと好きになってくれたから私も好き♡』みたいなこと、考えてないでしょうね」
その瞬間、大倉主査の言葉が脳裏によみがえった。
——僕が永瀬調査役を好きなのは、あなたがあなただからです。だから、調査役も、僕を好きになってください。
これって……史子が言っていることと同じなのではないだろうか。
私が黙り込んでいるのを見て、史子は肩をすくめた。
「とにかく。結婚は人生の一大事よ。玉の輿だとか、セレブだとか、そういう浮かれた話で考えちゃダメなのよ。そもそも相手の性格だって、まだそんなにわかっていないでしょう? しっかり相手を見定めないと、傷つくのは香織、あんたなんだからね」
「——わかんない」
正直に言ってしまってから後悔した。こういうはっきりしない態度を、史子は何よりも嫌うのを思い出したからだ。
けれど、意外にも、史子は怒りもせず、ふむふむとうなずいて見せたのだった。
「まあ、香織の性格上、こういう話にはっきりYES、NOを言うのは無理よね。どうしたらいいかわからなくて、ひとりで悶々と悩んだあと、とりあえず私に相談してみようと思いついたってところでしょ」
「……その通り、です……」
素直にうなずいた私に、史子は「で?」と語尾を上げた。
「で? って、何が……」
「決まってるでしょ? あんたは大倉主査のことどう思ってるの? それが基本じゃない?」
まっとうな意見を真正面からぶつけてくる。
「まさかとは思うけど、『自分のこと好きになってくれたから私も好き♡』みたいなこと、考えてないでしょうね」
その瞬間、大倉主査の言葉が脳裏によみがえった。
——僕が永瀬調査役を好きなのは、あなたがあなただからです。だから、調査役も、僕を好きになってください。
これって……史子が言っていることと同じなのではないだろうか。
私が黙り込んでいるのを見て、史子は肩をすくめた。
「とにかく。結婚は人生の一大事よ。玉の輿だとか、セレブだとか、そういう浮かれた話で考えちゃダメなのよ。そもそも相手の性格だって、まだそんなにわかっていないでしょう? しっかり相手を見定めないと、傷つくのは香織、あんたなんだからね」