君の手が道しるべ
「あ、藤柳さんがゲットしたんですね。……って、あれ? 当初提案は永瀬調査役じゃなかったですか? この案件。なんで藤柳さんが契約してるんですか?」

 栞ちゃんが怪訝そうに言って私の顔を見た。

 提案者が誰であれ、営業実績は、契約書を申し受けた担当者のもの、というのがウチの社内のルールだ。
 支店によっては、運用提案から契約までの担当が複数いた場合、獲得実績をそれぞれで按分することもある。実はここの支店もそうだ。

 しかし、今回の相手は梨花だ。
 あの梨花が実績を按分するなんてことがあるとは思えない。

「うん……まあ、確かに、最初の提案は私なんだけど。でももうしばらく前の話だし、当初提案の効力ももうないようなもんだよ」

「でも、それでも一言あってよさそうなもんじゃないですか。大倉主査も、最初に話を調査役に振っておきながらなんで契約は藤柳さんなんですか? おかしいですよ」

 栞ちゃんが意外に息巻くのを見て、私は苦笑してしまった。

 銀行なんて、所詮はこんなもんだ。資産運用のご提案だとか気取ったことを言いながら、内面はキャバクラの客の取り合いと何も変わらない。

 お願い営業であろうと、他人の客の横取りだろうと、数字がとれた者が勝者。

「……なんて、くだらない……」

 思わずそうつぶやくと、栞ちゃんが「え? 今、何か言いました?」と訊き返してくる。私は笑って「なんでもない」と首を振った。

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