可愛いなんて不名誉です。~ちょっとだけど私の方が年上です!~
第十話 ノールールって言いますけど
 とりあえず朝飯食えと洸也にごはんとみそ汁を差し出されて、美夜子ははむはむと素直に口に運んでいた。
「すみません。経理の特権で実家知ってました」
 なぜ涼さんがここに。美夜子が居間の入り口で硬直したとき、涼から先に種明かしされた。
 美夜子としては、家の調べ方というより、ここに来た理由の方が知りたかったのだが。朝ごはんを食べずに外に出たことがない美夜子だ。兄の横に腰を下ろして、ちらちらと向かいの涼を見やりながらも食事を進める。
「ふむ。びっくりするくらい優良な恋人をみつけたきたじゃないか」
 洸也は感心したように言う。
「全国区の会社に勤めながら、社員寮で自炊しながら生活。外車なんてものも買ったことない。原則酒は飲まない主義」
「……洸兄、私がいない間に何の話してたの?」
「俺を売り込んでました」
 涼は悪びれずに答えて、涼しげだが強い目の光で美夜子を見やる。
「長いお付き合いになりますので。今後、美夜子さんが逃げ帰らないのが一番いいんですけど」
 あれ? この流れ、初めて来る気がする。美夜子はちょっとだけ違和感を覚えたが、慌ててこぶしを握り締める。
「誤解です! 涼さんに不満があったわけじゃなくて。むしろ私にはもったいないくらいで、罪悪感がよぎってしまって」
「罪悪感? 美夜子さん、やましい事でもしてるんですか?」
「だ、だって」
 美夜子はしどろもどろになりながら、正直に答える。
「年下の男の子に……」
「たかが二歳ですが」
「仕事するための場所で……」
 美夜子が赤くなると、洸也が能天気に口を挟む。
「気にすんな。オフィスでメイクラブくらい、俺もあったわ」
「何してんの洸兄!」
 あなた警察官でしょう!と美夜子が真っ赤になって怒ると、洸也は頬をかく。
「いやーだからさ。たぶん涼は俺みたいにアウトなことしてないんだろ? 俺だってその嫁と結婚して仕事も続けられたのに、美夜子が何を気にしてんのかなと」
 ぐっと美夜子は黙る。何かと適当な兄だが、鋭い人だ。
 瞳を揺らした美夜子に、ふいに涼が言葉をかける。
「美夜子さんが戸惑うのは、変なことじゃないと思います。俺も……最初は一生懸命、美夜子さんから逃げようとしてたんです」
 美夜子はきょとんとして、不思議そうに涼を見返す。いつも沈着冷静で大人びた涼が、少年のように口をへの字にしている。
「どうして?」
「聞きたいですか。俺の情けない話」
 涼は冗談のように苦笑しながら、目だけは美夜子を食い入るようにみつめながら告げる。
「……もし全部聞いて、やっぱり俺が年下の子どもだと呆れても。俺はあなたを追っかけますよ」
 美夜子は一瞬、時が止まったように涼をみつめた。
 今までのようにどうしようとおろおろすることはなかった。もし聞いて、彼を嫌いになったらとも思わなかった。
 ただ、辿りたかった。彼が抱いてきた気持ちを、美夜子も抱きしめたかった。
 美夜子がこくんとうなずいたとき、涼は初めて美夜子と結ばれたときのようにうれしそうに笑った。
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