可愛いなんて不名誉です。~ちょっとだけど私の方が年上です!~
第七話 寒くてよかったと思いました
俺んち来ますかと涼に誘われて、美夜子は緊張した。
男の人の家にお泊りするには何を用意すればいいのか。同期でそんな話題を聞いたことはあるが、自分には遠いことだとまともに聞いていなかった。
「こ、コンビニ寄っていいですか?」
聞いておけばよかった。決して怖気づいているわけではないんですよと内心必死で言い訳した美夜子だったが、涼は快くコンビニに寄ってくれた。
しかしメイクは落としていいのか、下着の替えが売れ残りのボクサーパンツしかないが果たしてこれはいいのか、美夜子は売り場で頭を悩ませる。
「どうしました?」
ボクサーパンツでも許してくれますか。売り場で硬直している美夜子を心配してくれた涼にそんなことは訊けなくて、美夜子はそろそろとメイク落としを指さす。
「化粧を落とすのに抵抗が」
「落としてください。肌のためです」
あっさり言われて安心した。この調子なら下着も、「替えてください。衛生上当然です」と返されそうだった。
買い物を終えて家路を辿る。涼の家も美夜子と同じ建物の社員寮なので、道はよく知っている。
「冷えますね」
「ですよねー。春はおしゃれと寒さの折り合いがつきませんよね」
もうコタツしまっちゃいましたよ、と美夜子が笑って言ったら、その手がつかまれた。
美夜子の手が硬くて大きな手に包まれたかと思うと、そのまま涼のポケットに引っ張り込まれる。
「え、ええ!」
「だって寒いでしょう?」
「いや、イルミネーションの前でカップルがよくやってるのは知ってますけど」
「イルミネーション見に行きます?」
わたわたする美夜子に、涼が至極真面目に問い返す。
「いいじゃないですか。俺たち、恋人同士でしょう?」
美夜子はここ数日を思い返す。体の関係が先だったけど、告白をして、一緒にごはん食べて、これからお泊りに行く。
手からじんわりと伝わるぬくもりみたいに、心の中に暖かい流れがやってくる。
「ふぇぇ」
「え、美夜子さん?」
「すごいや。こんなかっこいい人が恋人になったんだ……」
例によって緩い涙腺が決壊して、美夜子はほろほろ泣き始めた。
涼は最初こそ戸惑った顔をしたものの、すぐに仕方ないなという苦笑いになった。
ポケットからティッシュを取り出して、美夜子の鼻に押し当てる。
「……まったく。なんで俺、こんな可愛い人つかまえたんだろう」
「うわ、ごめんなさい! 鼻水出てます?」
「いいですから。大人しく拭かれてください」
ほら、ちんってしてと子どものように促されて、美夜子は鼻を拭かれた。鼻をかんだだけではなく、恥ずかしさで鼻は真っ赤になった。
美夜子は今度は寒さとは別の意味で頬を赤くしたまま、涼のポケットに手をつっこまれて並んで歩いた。
こんないいことが続いたら、ばちが当たるかも。そんなことを思いながら社員寮にたどり着いて、涼の部屋らしい二階に上がったところだった。
「遅い。早く開けて」
そこに涼の部屋の前に座り込んで、ぶすっとしたまま彼を見上げた女の子が待っていた。
男の人の家にお泊りするには何を用意すればいいのか。同期でそんな話題を聞いたことはあるが、自分には遠いことだとまともに聞いていなかった。
「こ、コンビニ寄っていいですか?」
聞いておけばよかった。決して怖気づいているわけではないんですよと内心必死で言い訳した美夜子だったが、涼は快くコンビニに寄ってくれた。
しかしメイクは落としていいのか、下着の替えが売れ残りのボクサーパンツしかないが果たしてこれはいいのか、美夜子は売り場で頭を悩ませる。
「どうしました?」
ボクサーパンツでも許してくれますか。売り場で硬直している美夜子を心配してくれた涼にそんなことは訊けなくて、美夜子はそろそろとメイク落としを指さす。
「化粧を落とすのに抵抗が」
「落としてください。肌のためです」
あっさり言われて安心した。この調子なら下着も、「替えてください。衛生上当然です」と返されそうだった。
買い物を終えて家路を辿る。涼の家も美夜子と同じ建物の社員寮なので、道はよく知っている。
「冷えますね」
「ですよねー。春はおしゃれと寒さの折り合いがつきませんよね」
もうコタツしまっちゃいましたよ、と美夜子が笑って言ったら、その手がつかまれた。
美夜子の手が硬くて大きな手に包まれたかと思うと、そのまま涼のポケットに引っ張り込まれる。
「え、ええ!」
「だって寒いでしょう?」
「いや、イルミネーションの前でカップルがよくやってるのは知ってますけど」
「イルミネーション見に行きます?」
わたわたする美夜子に、涼が至極真面目に問い返す。
「いいじゃないですか。俺たち、恋人同士でしょう?」
美夜子はここ数日を思い返す。体の関係が先だったけど、告白をして、一緒にごはん食べて、これからお泊りに行く。
手からじんわりと伝わるぬくもりみたいに、心の中に暖かい流れがやってくる。
「ふぇぇ」
「え、美夜子さん?」
「すごいや。こんなかっこいい人が恋人になったんだ……」
例によって緩い涙腺が決壊して、美夜子はほろほろ泣き始めた。
涼は最初こそ戸惑った顔をしたものの、すぐに仕方ないなという苦笑いになった。
ポケットからティッシュを取り出して、美夜子の鼻に押し当てる。
「……まったく。なんで俺、こんな可愛い人つかまえたんだろう」
「うわ、ごめんなさい! 鼻水出てます?」
「いいですから。大人しく拭かれてください」
ほら、ちんってしてと子どものように促されて、美夜子は鼻を拭かれた。鼻をかんだだけではなく、恥ずかしさで鼻は真っ赤になった。
美夜子は今度は寒さとは別の意味で頬を赤くしたまま、涼のポケットに手をつっこまれて並んで歩いた。
こんないいことが続いたら、ばちが当たるかも。そんなことを思いながら社員寮にたどり着いて、涼の部屋らしい二階に上がったところだった。
「遅い。早く開けて」
そこに涼の部屋の前に座り込んで、ぶすっとしたまま彼を見上げた女の子が待っていた。