可愛いなんて不名誉です。~ちょっとだけど私の方が年上です!~
第八話 黒い笑顔と罰ゲーム
「ごめんなさい。失礼しました」
「よく見てください」
回れ右をした美夜子だったが、手は涼につかまれたままだったので歩き出せなかった。そのまま涼に引き戻されて、コマのように回転して女の子に向き直ることになる。
モデルみたいに顔が小さくて目鼻立ちのくっきりした子だった。しかもそれでいて胸が大きい。自他ともに認める筒形の体型の美夜子にはうらやましくて直視できない。
見た目がすべてじゃないよ。でも少なくとも見た目では負けてるよ。美夜子はあっけなく白旗を上げて首を横に振る。
「わかってますって! いい気になったばちが当たったんです!」
「とりあえず、いい気のまま中に入りましょうか。後は俺が気持ちよくしますから」
送られた流し目にどきっとしている場合じゃないのはわかっているが、手を離してもらえないのでずるずるとひきずられていく。
美夜子の目は涼の部屋と女の子を繰り返し往復する。今は難しいことほっといて、気持ちよくなっちゃおうよ。そんな天使なんだか悪魔なんだかわからないささやきが聞こえる。
別れた元カノなのかも? ストーカーなのかも? いくつか可能性を頭に浮かべたところで、美夜子の頭はスパークした。
「悪いことはしちゃいけないです!」
涼の手に噛みついた美夜子に、涼は低くうめく。
「ここまで来て離すと思ってるんですか?」
でも涼は美夜子の手を離さなかった。黒い笑顔で美夜子を見下ろしてから、美夜子を後ろから抱きしめて首筋に唇を寄せる。
「ちょっ! 人前で何てこと」
「ほら、よく見てください。真面目な美夜子さんが悪いんです。納得するまでこのままですよ」
首筋を這う熱にどぎまぎするが、今度は両腕で拘束されているので遠ざけることができない。身じろぎをすると罰のように首筋を噛まれて、そんなところ何もないのにと思いながら変な声が出てしまう。
「そ、外はだめです! こういうのは少なくとも」
「美夜子さん、中はだめって言いませんでした?」
言ったっけ、言わなかったっけ? だんだんわからなくなってきた美夜子に、涼が耳元でささやく。
「……最初の夜に。じゃあ今日は中でいいんですね?」
それは意味がちがーう! 盛大に心の中で否定した美夜子だったが、首筋を吸われてきゅんとした痺れが下腹部にやって来る。
いやいや待って、私の体。たとえ彼女が涼の恋人じゃないとしても、人前で、ましてや外で発情しちゃだめだから。
美夜子は耳まで真っ赤になっている自分をどうしようもできなかったが、なぜかその女の子は先ほどから一言も話さない。
ふと不思議になって彼女の表情をうかがうと、彼女は人の悪い笑顔で美夜子をじっとみつめていた。まるで獲物をみつけてしまった獣、それも小動物が震えているのを舌なめずりして見ているような。
……あれ、この黒い笑顔さっき見た。
「涼さんに似ているような……」
馬鹿正直に言葉にすると、涼は美夜子の首筋に顔を埋めたまま声を投げる。
「千佳。こういうわけだから、他を当たれ」
低体温だが別に嫌っているわけではない声音に、彼女はおっくうそうに立ち上がる。
「了解。お兄」
ひらっと手をひとふりしただけで、彼女は振り返らずに階段を下りていく。後に残った美夜子は、ぽつんとつぶやく。
「……お兄さん」
「納得したら中に入る約束ですね」
そんな約束しただろうか。また頭にはてなを浮かべた美夜子だったが、今度こそ問答無用で部屋に引きずり込まれる。
玄関に入った途端押し倒された。シャツのボタンを外され始めて、美夜子は大慌てで言う。
「わぁ! あ、あの。せめてシャワー行っていいですか?!」
「もう待てません。美夜子さんがじらすから」
涼は食むように美夜子の耳を甘噛みしながら、美夜子の先ほどから上がってばかりの体温を感じようとでもするように体をかき抱く。
ひゃっと美夜子は思わず声を上げる。
涼は例の黒い笑顔を浮かべて、美夜子のシャツのボタンから手を離す。
だめですってば……! 美夜子の言葉は途中から、半泣きの甘い声に変わる。
罰ゲームのように玄関で何度も意識が真っ白になった、そんな二度目の夜だった。
「よく見てください」
回れ右をした美夜子だったが、手は涼につかまれたままだったので歩き出せなかった。そのまま涼に引き戻されて、コマのように回転して女の子に向き直ることになる。
モデルみたいに顔が小さくて目鼻立ちのくっきりした子だった。しかもそれでいて胸が大きい。自他ともに認める筒形の体型の美夜子にはうらやましくて直視できない。
見た目がすべてじゃないよ。でも少なくとも見た目では負けてるよ。美夜子はあっけなく白旗を上げて首を横に振る。
「わかってますって! いい気になったばちが当たったんです!」
「とりあえず、いい気のまま中に入りましょうか。後は俺が気持ちよくしますから」
送られた流し目にどきっとしている場合じゃないのはわかっているが、手を離してもらえないのでずるずるとひきずられていく。
美夜子の目は涼の部屋と女の子を繰り返し往復する。今は難しいことほっといて、気持ちよくなっちゃおうよ。そんな天使なんだか悪魔なんだかわからないささやきが聞こえる。
別れた元カノなのかも? ストーカーなのかも? いくつか可能性を頭に浮かべたところで、美夜子の頭はスパークした。
「悪いことはしちゃいけないです!」
涼の手に噛みついた美夜子に、涼は低くうめく。
「ここまで来て離すと思ってるんですか?」
でも涼は美夜子の手を離さなかった。黒い笑顔で美夜子を見下ろしてから、美夜子を後ろから抱きしめて首筋に唇を寄せる。
「ちょっ! 人前で何てこと」
「ほら、よく見てください。真面目な美夜子さんが悪いんです。納得するまでこのままですよ」
首筋を這う熱にどぎまぎするが、今度は両腕で拘束されているので遠ざけることができない。身じろぎをすると罰のように首筋を噛まれて、そんなところ何もないのにと思いながら変な声が出てしまう。
「そ、外はだめです! こういうのは少なくとも」
「美夜子さん、中はだめって言いませんでした?」
言ったっけ、言わなかったっけ? だんだんわからなくなってきた美夜子に、涼が耳元でささやく。
「……最初の夜に。じゃあ今日は中でいいんですね?」
それは意味がちがーう! 盛大に心の中で否定した美夜子だったが、首筋を吸われてきゅんとした痺れが下腹部にやって来る。
いやいや待って、私の体。たとえ彼女が涼の恋人じゃないとしても、人前で、ましてや外で発情しちゃだめだから。
美夜子は耳まで真っ赤になっている自分をどうしようもできなかったが、なぜかその女の子は先ほどから一言も話さない。
ふと不思議になって彼女の表情をうかがうと、彼女は人の悪い笑顔で美夜子をじっとみつめていた。まるで獲物をみつけてしまった獣、それも小動物が震えているのを舌なめずりして見ているような。
……あれ、この黒い笑顔さっき見た。
「涼さんに似ているような……」
馬鹿正直に言葉にすると、涼は美夜子の首筋に顔を埋めたまま声を投げる。
「千佳。こういうわけだから、他を当たれ」
低体温だが別に嫌っているわけではない声音に、彼女はおっくうそうに立ち上がる。
「了解。お兄」
ひらっと手をひとふりしただけで、彼女は振り返らずに階段を下りていく。後に残った美夜子は、ぽつんとつぶやく。
「……お兄さん」
「納得したら中に入る約束ですね」
そんな約束しただろうか。また頭にはてなを浮かべた美夜子だったが、今度こそ問答無用で部屋に引きずり込まれる。
玄関に入った途端押し倒された。シャツのボタンを外され始めて、美夜子は大慌てで言う。
「わぁ! あ、あの。せめてシャワー行っていいですか?!」
「もう待てません。美夜子さんがじらすから」
涼は食むように美夜子の耳を甘噛みしながら、美夜子の先ほどから上がってばかりの体温を感じようとでもするように体をかき抱く。
ひゃっと美夜子は思わず声を上げる。
涼は例の黒い笑顔を浮かべて、美夜子のシャツのボタンから手を離す。
だめですってば……! 美夜子の言葉は途中から、半泣きの甘い声に変わる。
罰ゲームのように玄関で何度も意識が真っ白になった、そんな二度目の夜だった。