君と描く花言葉。
エンヴィ
残像
「うえぇ。カビみたいな臭いする。
先生ー、本当にあるんですよねー?」
鼻を摘みながら美術準備室から顔を覗かせたのは、中学一年生の頃の私。
今とそんなに顔が変わったわけではないけれど。
どこか、ちょっとあどけないような、そんな感じ。
「んー……多分、あったと思うけどなあ」
「多分って。しっかりしてくださいよー」
「すまんすまん。
俺はあっちの方を探してみるから、綾瀬はこっち側頼めるか?」
「はぁい」
気怠げな先生の言葉にふわっとした返事を返した私は、準備室にごちゃごちゃと積み上げられた古いキャンバスだの、足の折れたイーゼルだのをかき分け始める。
まったく、もう使えないものがあるなら捨てればいいのに。
美術室特有のあの絵の具の匂いとカビ臭さが混じって、なんとも言えない感じになっちゃってるよ。
この時の私は……何を探していたんだっけ?
これは、中学にもだいぶ慣れてきた頃。
美術部入った私が、初めてのコンクールに作品を提出した、その一ヶ月後くらいの出来事だ。
元々絵を描くのが好きだった私は、他に興味のある部活がなかったこともあって、迷うこともなく美術部に入った。
でも、そんなに飛び抜けて絵が上手い、なんてことはあるはずもなく。
コンクールも入賞しないことはもうわかりきっていたから、全くもってその結果に興味はなかった。
3年生の先輩に上手い人がいるから、もしかしたらその先輩が入ってるかな?と期待するくらい。
そのくらいの興味関心だった。
「……いたっ!」
がちゃがちゃとものをかき分けていると、急に指にチクっとした痛みが走った。
慌てて腕を引いて指先を見ると、細い赤筋が入っている。
……埋もれていた紙で、指を切ったらしい。
「もー……」
一体なんなんだ、今日は!
先生の探し物に付き合わされるわ、指を切るわ、散々だよ。
私は早く絵が描きたいのに!
恨みを込めて、私の指を傷付けた一冊の冊子を手に取る。
くだらないものだったら捨ててやるんだから。
なんて意気込んで、その表紙を睨みつける。
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