君と描く花言葉。



……話したこともない、成宮くん。



同じクラスになったこともないし、接点はこの美術部だけ。


なのに、彼は花の絵ばかりを描いているだとか、水彩画でも油絵でも、色鉛筆でもなんでも使えるだとか。


あんまり表情が変わらなくて大人しいだとか、自分のアトリエを持っているらしいだとか……。


様々な情報が入ってくるのは、やっぱり彼が特別だからなんだろう。



他の誰かにはない、自分だけがもつ特別なもの。


それを持っているから彼は、言葉少なでもみんなに囲まれているし、透明感があって透き通るようなその白い肌も『軟弱』ではなく『綺麗』なイメージになるんだろう。





……実は一回、家でこっそり、成宮くんの真似をしてみたことがある。



高校一年生の、成宮くんを知ってすぐくらいだったかな。



その日の部活で、薄い桃色のガーベラを成宮くんが綺麗なオレンジ色で描いていて、みんなに賞賛されていたから。


ちょうどお母さんがガーベラを持って帰ってきていたのを思い出して、家に帰って同じものを描こうとしてみたんだ。



うちにあったガーベラは赤色で、薄い桃色じゃなかったけど、どうせ色なんか変えちゃうんだからいいでしょって軽い気持ちで。



見えなくても真似をすれば描けるんじゃないか、なんて淡い期待は、一瞬で崩れ落ちた。


だって、私の描いたガーベラは、どれだけ眺めても目の前のガーベラではなくて。


陰影をつけるために使った黄色も、全然役に立たなかった。


結局ただの、黄色とオレンジが変に塗りたくられた、ちぐはぐな絵が出来上がっただけだった。



< 10 / 165 >

この作品をシェア

pagetop