君と描く花言葉。
「お邪魔しまーす」
とりあえず、先ほど乱暴に開けられたドアをそっと押しひらく。
温室の中はいつもと変わらず、至って普通で静かで、暖かかった。
「セイジ?」
「?あ、エリカ」
セイジの様子もいつもと同じ。
パレットと筆を持って、イーゼルの前に立っている。
さっきの女の子のことなんて、全く忘れているみたいなふうだった。
月森さんの優しさがいっぱい詰まった袋を机に置きながら、口を開く。
「今すれ違った子……怒ってるみたいだったけど」
「あぁ……あれが幼馴染。亜希奈だよ」
「やっぱりそうなんだ」
「割といつもあんな感じだから、気にしなくていい」
そう言ってセイジは、細い筆でイーゼルの縁をゆるゆるとなぞった。
……あれ?イーゼルを?
セイジの目の前には、キャンバスの乗っていないイーゼルがある。
その横には、描きかけの淡い黄緑色のマーガレットを支えるイーゼル。
そっちには装飾の中にアルファベットでセイジと入っているから、いつものセイジのもので間違いない。
じゃあ今セイジの前にあるのは、いつも私が使ってるやつ…?