君と描く花言葉。
「あ」
オレンジ色の、青い薔薇が目に入る。
これを描いたのは、どのくらい前だっただろう。
でも、ここに入り浸るようになって随分経って、私の世界を描くのにも慣れきった頃のことだ。
「ねぇエリカ。絵の具、取って欲しい」
セイジはただ、そう言った。
この頃には、セイジに絵の具を取って渡すことは日常茶飯事だった。
最初は私の世界を描くために、私が見た色を。
やがて、セイジが自分の世界を描いている時でも、「青を取って」「そこにあるオレンジ」なんて指定をもらうようになった。
でも、この時はいつもと違って、なんの指定もなかったのだ。
「え……っと。青でいい?」
つい困惑気味に、そう返す。
セイジがその時描いていたのは、青色の薔薇だった。
どこから持って来たのか、普通は見ないようなその薔薇は、偽物のような美しさだ。
絵の中の、まだ白黒の薔薇の方が、本物に見えた。
「何色でも」
「え?」
「何色でもいい。
エリカが選んだ色で、描きたい」
何色でも、なんて。
ここで赤なんて渡したら、青い薔薇なんて描けるわけがない。
セイジの世界でも、私の世界でもない色は、おいそれと見えるものじゃないだろう。
けど、セイジならきっと描いてくれると思った。
赤い、青色の薔薇を。
「……じゃあ、これ」
「ん」
結局私が渡したのは、オレンジ色だった。
青とは似ても似つかないその色を、彼は迷いなく筆につけた。
白黒の絵が、オレンジ色に染まっていく。
もちろんその間に彼は色々な色を混ぜているから、完全にオレンジなわけじゃない。
けど、青色の薔薇にはどう見ても現れないだろうオレンジが、彼のキャンパスには確かに存在する。
夢中でそれを見ているうちに、彼は手を止めた。
「できた」
そうして生まれたこのオレンジの薔薇は、確かにあの時目の前にあった青い薔薇だった。