君と描く花言葉。
一歩
「綾瀬、最近絶好調だなあ」
ガヤガヤと賑わう美術室でそう呟いたのは、やけに機嫌が良さそうな美術部顧問の先生だった。
その視線の先には、たった今完成した私のアネモネの絵がある。
ちょうど肌寒くなってきたこの季節は、ここら辺で1番大きい絵画コンクールの開催時期だ。
我が緑原高校美術部も例に漏れず、多くの人がコンクールに向けた作品作りに勤しんでいた。
「特に花の絵は見違えるほど生き生きしていていい。
このアネモネも、実物じゃなくて写真を参考に描いたんだろう?
なのに、まるで実物がそこにあると錯覚するくらいだ」
「あはは、ありがとうございます」
ちょっと大袈裟な気もするけれど。
毎週毎週特等席でセイジの絵を見ている私は、目が肥えてしまったのか、やっぱり自分の絵が実物と錯覚できるほどだとはどうしても思えなかった。
ただ、前までは美術部の時間以外では家でスケッチブックに軽く描く程度しか練習できなかったのが、ここ数ヶ月はセイジのアトリエのおかげで毎週集中できるかつ本格的な道具を使った練習ができている。
それで画力が少なからずと上がっているのは、自分でも感じていた。
うまく描こうと無駄に力んでいた力が抜けたのも、きっと関係している。