君と描く花言葉。

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「失礼します」



放課後、言われた通りに一人で美術室に行くと、私のクラスが早かったのかまだ誰も来ていなくて。



美術室の鍵を取りに、職員室にまで足を運ぶ羽目になってしまった。



担任の先生が今日は出張でいなかったから、先生の話がなかった分他のクラスより早かったみたい。



一人の時に限ってこういうことが起きるものだから、今日はついてないなぁ。



鍵を保管している棚から美術室の鍵を取り出して、踵を返す。



職員室の先生たちは私が入ってきたのなんて見えていないかのように、ある人はパソコンに向かい、ある人は昼放課に何かあったのか遅めのお弁当を食べていて、またある人は小テストの採点をしている。



中学までは、鍵を借りるのでもなんでもすべて先生を通さなければならなかったけれど。



ここが少し偏差値高めの高校だからなのか、それとも高校はみんなこんな感じなのか、生徒主体なことが多くなったような気がする。



それで今まで問題が起こったという話は聞かないんだから、なんだ、私たちってもう子供じゃないじゃん。なんてたまに思う。



「失礼しました……わっ」



職員室から出たところで誰かとぶつかりそうになって、小さく声が出てしまった。



慌てて頭をあげて、謝ろうと口を開く。



「ごめんなさい!前見てなくて……」



言い終わって、目の前の人の顔を見て思わずフリーズする。



……成宮くんだ。



しまった。これはまったく予期してなかった。



完全に油断していた私は、急な成宮くんの登場に上手く反応できなくて、目の前にある顔をただ見つめ続ける。



彼の綺麗な目に、私の顔が映っている。


おお。私、完全に呆けた顔だあ。


俗にいう、ぽかーん、というやつ。



……それにしても、成宮くんをこんなに近くで見たのは初めてだけれど。



やっぱり、整った顔だなあ。



目は紅茶色というか、ミルクティー色というか、普通の日本人よりも色素が薄めで。


まつ毛は長くて、女の子としては羨ましい限りだ。


肌は綺麗だし、髪の毛はサラサラふわふわ。


何も手入れしてなさそうなのに。ずるいなあ。



……なんて、人ごとみたいに分析している場合ではない。




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