君と描く花言葉。
「……鍵。開けて欲しいんだけど」
「へっ?あっ、うん」
ぼんやり成宮くんの不思議について考えていると、本人から声をかけられてしまった。
いつのまに美術室まで歩いて来ていたのか、彼はただ不思議そうに私を見ている。
目的の美術室に着いても気付かないなんて……さすがにぼーっとしすぎでしょ、私。
慌てて成宮くんの前に出る。
じーっと私を見る彼の明るい瞳から逃れるように、素早く美術室の扉を開けて中に入った。
ふわっと、絵の具の匂いがただよってくる。
成宮くんと同じ時間に来たってことは、まだ先生が来るまで結構時間がありそうだなあ。
ニゲラでも進めようか。
そう思い至って、美術室の鍵を定位置の壁のフックに掛け、立て掛けられたイーゼルに手をのばす。
後ろから成宮くんも美術室に入ってきて、パタンと扉が閉まる音が聞こえた。
……もしかしなくても、成宮くんと二人きりの空間で絵を描くことになるんだよね、これ。
成宮くんは私の絵になんて興味ないだろうし、見られることはないだろうけど。
それでも、劣等感というものは消えない。
だって、彼の絵は私なんか比べ物にならないくらいすごいものだし。
なんか、嫌だなあ。
複雑な気分になりつつ、描きかけのニゲラの絵を準備して、側に画材を揃えていく。
なるべく成宮くんを視界に入れなくなくて、成宮くんに背を向けるような形で画材を用意していたのだけれど。
……私の予想とは反して、私の絵は存外成宮くんの気を引いたようで。
「……ニゲラ」
「っ……!」
ふいに後ろから飛んできた声は、明らかに私の絵に向けられたものだった。