君と描く花言葉。
「……え?」
手に取ったそれの表紙は、デカデカと一枚の絵によって支配されていた。
絵に描かれているのは、見たこともない花。
画面いっぱいの青と、紫、よく見れば緑や赤も混じっている気がする。
正確に言うともっと、プルシャンブルーとか、ネイビーとか、ロイヤルパープルとか、なんかこう、色々言い方があるんだろうけど。
色の名前なんていちいち覚えていない私には、わからない。
「……金賞」
呆気にとられながらもポツリと読み上げた表紙の二文字から察するに、これはコンクール結果のお知らせだったんだろう。
今思い返してみるとそう思えるけど、その時の私の頭では、そんなことは思いつかなかった。
なに、これ。
なにこれ、なにこれなにこれなにこれ?
見た瞬間から私の頭が、壊れたように同じ言葉を繰り返し始めた。
すごい。すごいよ、この絵。
興奮がおさまらない!
いつのまにか手に力が入って、冊子がクシャリと軽い音を立てる。
使われている色は普通に描くと毒々しくなりそうな色ばかりで。
それなのに、何故か透明感がある。
薄めているわけでもなさそうなのに、透き通るような綺麗さ。
たしかにそこにその花が『ある』と思わせる、圧倒的な存在感。
『描かれている』なんてそんなレベルじゃなくて、本当にそのものがあるように見えて…手を伸ばしたら触れそうな気がして、そっとその表紙を指でなぞった。
感触はもちろん紙でしかないけれど、ドクドクと心拍数が上がっていく感覚がする。
すごい。
中学生部門なんだから、これを描いたのも中学生なんだよね?
あと1年2年でこんな絵を描けと言われても、私には絶対にできる気がしない。
むしろ、何十年かかっても描けそうにないくらいだよ。
だって、こんなにたくさんの色が入り混じっているのに、はっきりと「青色の花」だってわかるんだもん。
見たこともない花なのに。
本物の花が、絵を通した向こう側に見える。