君と描く花言葉。



「……エリカ?」


「あぁ……いや、なんでもない……」



今までの一連の思考を全て驚いた顔のまま固まってやり過ごしていた私は、ぎこちなく笑みを作る。



っていうか、成宮くんに呼び捨てされるのってすごい違和感。


今まで呼ばれたことはおろか話したこともなかった分、余計に。


多分、私の苗字知らないんだろうなあ。


あの絵の具、苗字まで書いてなかったし。



「あの……じゃあ、ちょっとだけお邪魔してもいい?」


「ん。……どうぞ」



こうなったら、とことん満喫してやろう。


もう成宮くんに遠慮なんてなしだ。



だってそんなに恵まれてるんだもん!少しくらい私もそれにあやかってみたっていいよね!?成宮くん本人が言ってくれてるんだし!



謎に開き直って、私がさっきまでずっと眺めていた敷地内に慣れたように入っていく成宮くんを追いかける。



心の中で散々成宮くんを敵視しておいて、図々しく温室に入れてもらうとはね……。


我ながら、まったく現金なやつだなぁ。




成宮くんは隣にある家には入らず、温室に直行した。


そのポケットから鍵が出てくる。


おぉ……本当に成宮くんの家なんだぁ……。


別に疑ってたわけじゃないけど、やっと実感した。



ドアを開けていてくれる成宮くんに甘えて、一歩を踏み出す。



「お邪魔しまーす……」






……入った瞬間に目に入る、花、花、花。


植木鉢に植えてあるものがたくさん並んでいて、花の付いていない葉っぱだけの植物や、逆に花がこれでもかってほど付いている植物もある。


壁にもツタがいい感じに絡んでいたり、ちょっとオシャレな柄のジョウロがかかっていたり。


さらにベンチまで備え付けてあって、室内だけど映画とかでよく見る豪邸のお庭みたいだ。



やっぱりすごい……!


外で見てもすごかったけど、やっぱり中で直接見ると違うものなんだねぇ。


さっきまでとは比べ物にならない迫力に圧倒される。



これが成宮くんの家……ってことはもしかして、これ全部絵のモデルなんじゃ……?


だとしたら、すごい数だ。



成宮くんって、今までどのくらい絵を描いてきたんだろう?


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