君と描く花言葉。





キャンバスの向こう側にアマリリスを置いた成宮くんが、そっとキャンバスの前の椅子に座った。



彼はおもむろに鉛筆をとって、キャンバスにスーッと線を引く。


その線は薄くて、最初はこの距離じゃ何を描いているのかわからなかったけれど。



軽やかな手の動きをずっと目で追っていると、そのうちなんとなく、本当にぼんやりと花の輪郭が浮かんできた。



成宮くんはどうやらアマリリスを描いているらしい。



らしいというのは、そりゃあさっき描くって言ってたわけだからそうなんだろうと思っただけで。


最初からアマリリスに見えるような描き方じゃなかったから、びっくりしただけだ。


ふわっとした輪郭だけを描いたような、そんな成宮くんの絵は初めて見た。



そういえば、成宮くんが絵を描き始めるところをこんなにまじまじと見たのは初めてかもしれない。


こんな描き方をするんだ……。



私の場合、最初から花の形にしようと描いてしまうけれど。


彼の今の絵は、線がきちんと繋がっているわけじゃないから境界ははっきりしないし、なんだか特徴だけを箇条書きで書き出していっているような、よくわからないけど言葉にしようとするとそんな感じの絵だった。



彼は驚く私には目もくれず、私の存在なんて忘れたようにカリカリとどんどんアマリリスを描いていく。



その真剣な表情から、何故だか目が離せなくて。



顔だけなら美術部でいつも見てるはずなのにな。


アトリエの入り口から、私はその光景をただ呆然と眺めることしかできない。




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