君と描く花言葉。
「あれ。だったら、緑原高校じゃなくて、美術の専門学校とかに行こうとは思わなかったの?」
「……俺、画家になりたいわけじゃないから」
「えっ!そんなに描くのが好きなのに?」
「好きだからだよ。
俺は、自分の周りを自分の色にするのが好き。
……それを手放すのは、好きじゃない」
なるほどなぁ……。
画家って、絵を売ってお金を稼ぐイメージあるしね。
実際のところどんな感じなのかはわからないけど。
「……そうなんだ。なら、なおさら勉強しないとね」
「…………。善処は、したいんだけど」
「けど?」
「……眠くなるから」
「夜遅くまで絵を描いてるからじゃないかなぁ」
「……そうだね」
2つ目のおにぎりを平らげた成宮くんは、一緒に袋に入っていたお茶を少しだけ飲むと、満足そうに立ち上がる。
昨日の昼から丸一日食べてないのに、2つだけで大丈夫なのかな……。
若干心配になりつつも、イーゼルを運び出そうとし始めた成宮くんを手伝うことにする。
やっぱりそのイーゼルには、さっき成宮くんが使っていたイーゼルに描かれていたような模様はなかった。
キャンバスを腕いっぱいに抱えて下に降りていく成宮くんの後ろについて、イーゼルを運ぶ。
ギシギシと階段がさっきよりも大きな音を立てたけれど、もう怖いとは思わなかった。
「そういえば、なんで電気つけないの?」
「見えないこともないし……いいかなって。
使わない部屋とかは、そもそも電球切れてるけど」
「それは替えなよ!?」
「めんどうくさくて……」
「カーテンは?開けたら明るくなるでしょ?」
「……絵に直射日光は良くない」
成宮くんの視線の先を追うと、さっきは焦っていたせいか気付かなかったけど、壁にいくつも絵が掛けられているのが見えた。
なるほど……いや、たしかにそうなんだけど。
成宮くんの思考回路はとにもかくにも絵に支配されていて、その他はどうでも良くなるのかな?
っていうか、まさしくそうなんだろうな。