君と描く花言葉。
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カァ、というカラスの鳴き声に、ふと我に返った。
淡いピンク色に染まった筆の動きを止める。
さっきまで降り注いでいた陽の光はオレンジ色に染まって、夕暮れの訪れを示している。
……あれ、ちょっと待って。
私、なんでここにいるんだっけ。
電車に乗って、来たこともない隣町まで、何のために……。
……そうだ。お使いを頼まれて来たんだ!
「やばい!忘れてた!」
「?」
急に立ち上がった私に、成宮くんがきょとんとした顔を向けてくる。
慌てて腕時計を確認すると、針は6時前を指していた。
あと30分で閉まっちゃう!
道に迷わなければ全然間に合うだろうけど、私の場合そこが問題だ。
「どうしたの?」
「えっとっ……こ、このお店知ってたりしない!?
お使い頼まれてたのすっかり忘れてて!」
言いながらカバンに入れていたチラシを取り出して見せて、ハッとする。
この店は化粧用品店だ。
女の子ならいざ知らず、成宮くんが知ってるはずないじゃん……!
チラシを受け取ってまじまじと見つめる成宮くんの横で、急いでスマホを操作する。
土地勘のある成宮くんなら、地図を見せればわかるかもしれない!
「ここ!ここなんだけど」
「知ってるよ」
「えっ?」
地図を表示したスマホ画面を成宮くんに向けようとした瞬間、成宮くんが顔を上げる。
私が焦っているからか、成宮くんはそれ以上は何も言わず、おもむろに立ち上がって出口へ向かった。