君と描く花言葉。




「こんなもんかな」



30分くらいで薔薇を完成させた私は、最後に『綾瀬 絵里花(アヤセ エリカ)』と自分の名前を記してから、静かに席を立つ。



熱心に薔薇を見つめて手を動かしている人、雑談をしながら描いている人、イヤホンを付けて音楽を聴きながら取り組んでいる人など、様々いるけれど。


さすがに早すぎたのか、誰も席を立つ気配はない。



確かに、この絵にはまだまだ改善点がある。


もっと描けと言われれば、全然描くところがあるほど。



でも、そんなことよりも、早くニゲラが描きたくて。



「先生、できました」



そのままの状態で、先生のところへ持っていく。



「おお、綾瀬ー」



驚いたように私を見る先生の声は、どこか気が抜けている。


……いつも思うけど、美術部の顧問って、みんなこんなものなのかな。


中学の頃の、あの金賞の絵を見つけた時に私に手伝いを頼んでいたあの顧問の先生も、いつもどこか気だるげだったけど。


それとも、単に私が会う先生が2人とも特殊なのかな。



そんな私の考えなんてつゆ知らず、先生は言葉を続ける。



「早かったな。
今日はなんだ、早さ競いでもしてるのか?
もう2人目だぞ」


「え?」



2人目、という言葉に驚いて先生の机を見ると、すでに提出された、裏返しの紙が見えた。



嘘。だって私、こんなに早く描いたのに。



今日は色ぬりはなしで、鉛筆一本で描く課題だったから、私もこんなに早く終われたけれど。


だからって、30分もかけずに終われるものじゃないよ。



「……一番目。誰ですか?」


「成宮だよ」


「成宮……くん」



その名前に、思わず眉をひそめそうになる。



……成宮 星慈(ナルミヤ セイジ)は、天才だ。



高校二年生にして、美術部の顔。


ううん。一年生の頃、入部してからすぐでもそうだった。



入部してすぐの、絶望にのまれた記憶が蘇る。


だって、成宮くんは同い年なのに。


入部後すぐのコンクールで、先輩を軽々と超えて金賞を取ってしまったんだもん。



彼の描く絵は、まるで生きているみたいに生き生きとしている。


私の憧れるあの金賞の絵とは、真逆のイメージだ。



あの絵が影なら、成宮くんの絵は光。そんな感じ。



あの絵は、どこか闇に包まれていて、暗くて、でも綺麗で、儚くて……。


タイトルは「寂しい」とか。そんな感じじゃないかなって、勝手に想像している。


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