この空を羽ばたく鳥のように。
第一章 カウントダウン

* 十 *






 桜 舞い散る、よく晴れた日のことだった。
 わが家に跡取りとなる少年がやってきた。

 色白で、痩せていて、ヒョロリと背が高い。

 けれどもそれは病弱的なものではなく、それが生来の姿なのだとのちに知る。


 顔は役者のようにきれいに整っていて、女子(おなご)の私より可愛らしい。


 その瞳は驚くほど澄んで まったく(よど)みがなく、終始 穏やかな表情で、その口元を柔らかく(にじ)ませて。

 絶えることを知らないその微笑は、少年らしからぬ 大人びて艶やかなものだった。



 桜並木の下でも通って来たのだろうか、彼の肩には桜の花弁がいくつも乗っていて、

 それがあたかも花びらとともに舞い降りてきた桜の化身のように思えた。



 彼はそれほどまでに(うるわ)しい少年だった。



 「あなたが……八三郎どの?」



 その容貌に気後(きおく)れしながらも訊ねると、少年はクスッと笑う。
 とたんに年に見合った、少年らしい愛くるしい笑顔になる。



 「喜代美(きよみ)ですよ。これからはそうお呼び下さい。………さより姉上」



 私より年下なのに、声音もまだ高い子どものそれなのに、

 やけに大人びていて、すべて心得ているというような口調がとても印象的だった。



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