この空を羽ばたく鳥のように。
「ありがとうございます!! 私、会うまでずっと不安だったんですけど、よかったです!さよりさまがお優しい方で!それでは失礼します!」
(……それはもしかして、私を怖い人だと想像してたってことかな?)
すっかり安堵しきった表情で早苗さんはペコリとおじきをすると、軽やかな足取りで、迎えにきた女中を従えて帰っていった。
……ふう、と ため息が漏れる。
「――――私の読みは当たっていたようね」
おますちゃんが後ろから得意げに言った。
呆れた表情を隠すため、振り返らずにそれに応える。
「間者じゃなかったけどね」
「あら、でも別の目的があるってのは当たっていたじゃない。
まさかそれが、おさよちゃんとこの麗しの弟君だったとは想定外だったけど」
おますちゃんだけでなく、親しい友人は私のことを『おさよ』と呼ぶ。
理由は簡単。『さよりちゃん』と呼ぶのが面倒だからだ。
愛称と言えば聞こえはいいが、それなら最初から私の名前は『さよ』でよかったのではないかとつくづく思う。
「美童の弟君を持つと苦労するわねえ。
けど、さっきのあの子の言葉はちょ~っと失礼だったわねえ」
その言葉に賛同するかのように、私は勢いよく振り返るとおますちゃんのがっちりとした両肩を掴んだ。
「……そう思う!? ねえ!! やっぱりおますちゃんもそう思う!? ねえ!! 私、怒っていいよねっ!?」
先ほど沸きあがった思いを吐き出すかのごとく、私は大声をあげた。
そう、彼女の言葉は失礼だ。
あれではまるで、津川家に来てから喜代美は不幸になっていると言わんばかりじゃないか!
.