この空を羽ばたく鳥のように。
ひととおり獅子踊りが舞い終わると、獅子団はまた別の場所へと移動してゆく。
お囃子に気分よく乗りながら、弥太達はその後をついていった。
だんだんと散らばる群衆の中から、おますちゃんが満足そうに歩いてくる。
「あ~よかったわねえ!……あら?みんな、どうしたの?」
どうやらおますちゃんは 私達のことなど気づかずに、最前列で獅子踊りを堪能していたらしい。
私とおさきちゃんは顔を見合わせて苦笑した。
「雄介サァ!雄治!」
群衆の中から姿を現した日新館の生徒達も、こちらに大声で呼びかけてくる。
兄君が弟君に目配せした。
「俺達も行こう。それでは皆さん、お先に御免」
丁寧にお辞儀すると、兄君は仲間達の元へ踵を返した。
弟君も軽く頭を下げて兄君のあとを追う。
その背中に、あわてておゆきちゃんが声をかけた。
「あっ……利勝さま!ありがとうございました!」
その言葉に振り返ると、弟君は笑うことなくぶっきらぼうに返す。
「気をつけて帰れよ!」
それだけでおゆきちゃんの表情が可憐にほころぶ。
「はい!」
――――恋、かあ……。
遠ざかってゆく弟君の後ろ姿を、おゆきちゃんは絶対的信頼と大切な宝物を愛おしむような瞳で見つめる。
その表情はうっすら頬が上気して、とても輝いていて。
彼女の幸せが手に取るように伝わってくる。
早苗さんといい おゆきちゃんといい、恋する乙女は何故そんなに幸せそうな顔をするんだろう?
恋なんかしたって、叶うはずないのに。
その想いは報われないと、気づいていないのだろうか?
それでも恋してしまう何かがあるのだろうか?
(まったく分からない)
恋など知らぬほうが、嫁ぐ時すんなりと相手を受け入れられるような気がするのだが。
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