この空を羽ばたく鳥のように。




 ちらりとおさきちゃんを見る。



 「……おさきちゃんは、誰かに恋してる?」



 ボソリと となりの彼女に顔を寄せて小さく訊ねると、
 おさきちゃんはやはり遠ざかる兄君を見つめたまま、うっとりとつぶやく。



 「考えられないわ……兄上より素敵な方なんておられないもの!」



 あ、そう。



 「おますちゃんは……」



 言い()して、やめた。


 おますちゃんは大の役者好き。よく役者の錦絵を取り寄せてもらってるもの。
 現実の殿方なんかより、理想の殿方を追い求めるのに忙しい。



 (でもそうよね。それが普通)



 それが普通……よね?



 おさきちゃん おゆきちゃんと別れて、私とおますちゃんは迎えにきた女中を従えてのんびりとおしゃべりしながら帰り道を歩く。

 郭内に入って歩いていると、道の向こうから五・六人の少年達が歩いてきた。



 (―――喜代美だ)



 いつも朋輩達の一番後ろにくっついてる。
 背が一番高いからか、一歩退いた謙虚さゆえか。


 そんな喜代美はこちらに気づくと、いつものように優しく微笑んで会釈する。


 喜代美達も、別の彼岸獅子を見てきた帰りなのだろう。
 これからまたどこかへ出かけるのか。


 私達も端に寄り、会釈して通り過ぎる喜代美達を見送ったが、他の少年達は私達を一瞥すると逃げるように足早に過ぎ去った。



 わが会津藩には、男女に関する厳しい掟がある。
 『什の掟』でも分かるように、男子が女子に関心を持つことは固く禁じられていた。


 そんな彼らの背を見つめて、おますちゃんがほうとため息を落とす。



 「おさよちゃんの弟君は、また一段と麗しくなられたわね」

 「そう?」

 「ええ、今すぐにでも役者になれるわ!」

 (なんじゃ そりゃ?)



 けれど内容はどうであれ、喜代美が褒められるのは嬉しい。



 「自慢の弟だからね」



 得意げに言ってみせると、一瞬だけ目を見開いたおますちゃんが「はは~ん?」とばかりに目を細めニヤリとした。



 「たいした進歩じゃない」

 「私だってもう十七よ。子どもじゃないんだから。ちゃんと分別をわきまえたわ」

 「へえ?長い幼児期だったこと。
 もしかして、彼の魅力にほだされちゃったとか?」



 ――――ギクッ、とした。


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