この空を羽ばたく鳥のように。



 津川瀬兵衛隼人には娘ばかりが四人いた。
 その末子が 私だ。


 男児を男児をと望みながら年を経て生まれたのが私。
 とうとう天から男児をもらい受けることは叶わなかった。


 上の三人の姉は、長姉のみどり姉さま以外は嫁に行ってしまった。


 みどり姉さまに婿を取らせ家督を継がせようとしたのだが、迎えたばかりの婿どのの数馬(かずま)さまは病を()てあっさり他界してしまう。


 婿どのを心から慕っていたみどり姉さまは、悲しみに暮れて次の婿を迎え入れることを拒み、
 他の姉ふたりもすでに()したか嫁ぎ先が決まっていたため、結局今日まで跡を継ぐ者が決まらずにいた。



 姉達から年を離れて生まれた私は、父と娘というより祖父と孫に見える間柄で、父上にとても可愛がられて育った。

 小さい頃 明朗快活だった私は、よく父上を喜ばせたもんだ。



 「さよりは元気がいいのう!明るいし、それに賢い。
 男子でないのは残念じゃが、なあに、いつか立派な婿を迎えてやるさ。
 お前はその婿どのと一緒に、この家を守り立てるのだぞ。よいな?」



 幼い頃に繰り返し言われた父の()れ言を、私はすっかり信じ込んでその気になっていた。

 父の望みを叶えることが、いつしか目標になった。

 男子にはなれぬが、せめて男子に劣らぬ女子になろう。
 父上が自慢できるような しっかりとした女性になって、立派な婿どのを迎えて この家を守り立ててゆくんだ。



 ―――そう 信じていたのに。



 父上は私より、本当の男子を跡取りに選んだ。


 私の決意を裏切った。


 今まで両親の愛情を一身に受けていたのは私だったのに。
 家督を継ぐ者として期待されていたのは、私だったはずなのに。


 私の居場所は一瞬にして、養子の喜代美にすべて奪われた。



 ―――そうよ。認めるわ。



 そうやって両親の寵愛を受けながら、それが当たり前のように涼しい顔で毎日を過ごしてるあいつが、悔しくて嫌いでたまらないのよ。










 ※明朗快活(めいろうかいかつ)……明るく朗らかで、はきはきと元気なようす。


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