この空を羽ばたく鳥のように。



 私は子どもじゃないから、もちろん飴を心待ちにしている訳ではない。

 ただ喜代美が何かお礼をしたいと言うから、何か頼めば気が晴れるだろうと思って言った、()れ言にすぎないもの。

 けれど喜代美は、それをまるで忠実に果たさなければならない役目のように、鳥飴を買ってくることに並々ならぬ意気込みを見せているようだ。


 どんな些細なことにも、真剣に取り組む。
 そして私の望みを一生懸命叶えようとしてくれる。


 そんな喜代美が、可笑(おか)しくて愛おしい。
 私の口から、クスッと笑みがこぼれる。



 「うん。楽しみに待ってる」




 ――――いつから私は、喜代美の前でこんなに素直に笑えるようになったんだろう。

 心に抱えている思いも、素直に言葉にできたらいいのに。
 そしたらもっと、喜代美の笑顔が見れそうな気がするのに。



 「本当は、一緒に行けたらいいのですけれど」



 喜代美は人指し指で鼻先を掻きながら、少し照れ臭そうに言う。



 「一緒に露店を見てまわれば、もしかして鳥飴の他に姉上の欲しいものが見つかるかもしれない」

 「何言ってんの。そんなこと出来る訳ないじゃない」



 他国ならいざ知らず、わが藩は『什の掟』にもあるように、男女間については(こと)(ほか)厳しい。

 付け文などはもちろん御法度だし、色恋の話をするだけでも良しとしない。

 それなのに夫婦でもない若い男女が町を歩くなど、もってのほかだ。




 ちなみに上士は、お金に触れることも良しとしない。

 買い物をするときは財布ごと店の者に渡し、中のお金を入り用な分だけ抜いてもらう。
 つまり勘定をいくらにするかは、店の者の勝手次第というわけ。


 藩士だってすべての者が裕福な訳ではないのに、武士は食わねど高楊枝というのか、お金についてあまりこせこせするのは、武士の矜持(きょうじ)が許さないようだ。










 ※()(ぶみ)……思う相手にこっそりと恋文を渡すこと。

 ※矜持(きょうじ)……自分の能力をすぐれたものとして抱く誇り。プライド。


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