この空を羽ばたく鳥のように。



 「……いつか、誰の目も(はばか)ることなく、女人と肩を並べて町を歩けるような、そんな時代が来るといいですね」



 ぽつりと喜代美がつぶやく。



 「そんな日が いつか来るかしら」



 私には想像できない。

 だって夫婦で連れ立つとしても、妻は夫の三歩後ろを歩くのが世の常だ。
 男女が肩を並べて歩くなど、この男尊女卑の世では考えられないことだった。



 「時代は動き出しています。不要な古いしきたりは、いつしか消えて無くなるでしょう。
 そんな世が来たらと思うと、その日が待ち遠しく感じられませんか」



 そう言って、喜代美は私を見つめて柔らかく笑う。



 ………不思議。喜代美の言葉と笑顔には、素直に頷きたくなる力がある。


 説得力があるからだろうか?
 いいえ。
 私が喜代美の言葉を信じたいと願うのだ。





 「……そうね。そんな日が、早く訪れるといいわね」



 私も笑うと、喜代美のまなざしがいっそうやわらいだ。



 (―――そんな世が来るならば、明日にでもすぐ来てほしい)



 そうすれば、喜代美と一緒に祭礼に行けるのに。
 誰にも憚ることなく町を歩き、一緒に露店を眺めることができるのに。



 それが できたなら。
 どんなにか幸せなことだろう――――。










 ※男尊女卑(だんそんじょひ)……男性を尊重し、女性を男性に従うものとして軽視すること。また、そのような考え方や風習。

 ※しきたり……地域や集団の中で、そうすることが決まりとなっていること。ならわし。慣習。


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