この空を羽ばたく鳥のように。
八郎さまの使った湯呑みと急須を洗うため、それを運んで台所へ行くと、みどり姉さまがおられた。
「ちょっとのどが渇いてね」
そう言って、みどり姉さまは手にしていた碗を掲げてみせる。
それに頷いて返すと、小さめの桶に湯呑みと急須を入れ、井戸へ行こうと土間を横切った。
「―――さより」
そんな私をみどり姉さまが呼び止める。
「八郎どのがおいでになられたのですってね。おたかから聞いたわ。喜代美さんにではなく、お前に会いに来たと」
ドキリとして、みどり姉さまを振り向く。
「あ……はい。お報せせず、申し訳ありませんでした」
穏やかな口調の中に、とがめるような険がある気がして、私は素直に謝った。
「それは別にいいの。私も母上にはお報せしてないわ」
報せなかったことが気に入らない訳ではないらしい。
けれど姉さまの表情は固い。
「それで……八郎どのの御用向きは?何のお話をしていたの?」
まっすぐ見つめて問いを重ねる姉さまに、なぜそれを訊ねられるのか分からずたじろぐ。
「な、何も……。ただ、たわいもない話をしていただけです」
「本当に それだけ?」
念を押すような強い口調に、訳が分からないまま頷いて返す。するとやっと姉さまは肩の力を抜き、いつもの穏やかな表情に戻った。
「そう……。ところで先ほど喜代美さんが戻られたようだけど、八郎どのがいらしてたこと、ちゃんと伝えたでしょうね」
「は、はい……」
八郎さまが訪れた理由は言わなかったけど。
「ならいいの。足止めさせて悪かったわ」
そうおっしゃってみどり姉さまは横を向くと、手にしていた碗の水を飲み干し、台所をあとにした。
「………?」
なんだったんだろう?
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