この空を羽ばたく鳥のように。
お城より北西の方角にある諏方神社は、会津六社のひとつで郭内に唯一存在する大鎮守だ。
神社名『諏方』は、本社の諏訪神社と同じでは畏れ多いとして、この字が当てられた。
祭礼は七月の二十六日から二十八日までの三日間取り行われる。
この間は各家々の門柱に提灯や行灯が掲げられ、五目御飯やお煮〆などのごちそうをこしらえる。
諏方神社では神事や神楽・能楽を奉り、身分や老若男女関係なく毎年数多くの人びとが参詣に訪れた。
商人達も大勢集まって店を開くので、いつもは家に閉じこもり気味の武家の女達も参詣に出かけて祭りを楽しみ、
藩士の子弟たちもこの日は買い食いが解禁となって、人々は夜になってもいつまでも覚めやまない賑わいに酔いしれた。
かくいう私も、祭礼が始まる今日は朝から気持ちが弾んでいた。
祭礼のため、日新館はお休み。
喜代美は私が仕立てた小袖を着て出かけて行った。
「喜代美、いってらっしゃい!」
門を出ようとする喜代美を見送りながら再度声をかけると、喜代美は振り向いて少年らしいさわやかな笑顔を見せた。
「はい!行って参ります!」
そのまぶしい笑顔を見つめて、私は大満足だった。
小袖を渡したとき、喜代美は感動したようにその着物を見つめて、
「ありがとうございます!」
満面の笑顔を見せてお礼を言ったあと、これは祭礼に着て行こうと張り切っていた。
そして今朝、着物に袖を通したその姿は、私が想像していたよりはるかに凛々しく見えた。
鮫小紋に染め抜かれた露草色は、色白の喜代美にすっきりとよく似合う。
着丈もちょうどよく、着流しでも充分いける。
我ながら上出来だと着物の出来に満足し、喜代美によく似合ったこともこれまた満足して、私は上機嫌だった。
そして喜代美が持ってくるだろう小さな甘いお土産を、とても心待ちにしていた。
※会津六社……城下の諏方神社、蚕養国神社、大沼郡の伊佐須美神社、河沼郡の塔寺八幡宮、耶麻郡の磐椅神社、越後蒲原郡の西村八幡宮。
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