この空を羽ばたく鳥のように。
そんな私も、お昼を過ぎたあとおますちゃんと一緒にお諏方さまの参詣に出かけた。
神社をぐるりと囲んだ白壁の入口の前で、待ち合わせていたおさきちゃん・おゆきちゃんと合流すると、まずはお社へお参りを済ませることにした。
参道の両脇には、たくさんの露店が出ている。
風車や首振りべこなどの民芸品、それから簪や櫛・紅などの小間物も豊富に売られている。
そして鳥飴・三本飴などの駄菓子類。
おますちゃんの大好きな歌舞伎役者の錦絵まで、何から何まで揃っている。
どこの露店も賑わいを見せていて、見ているだけで胸が踊りだす。
「……わ、これ 不思議な絵ですね」
おゆきちゃんが錦絵のとなりに置いてあった一枚の絵を取りあげてしげしげと見つめた。
私も覗き込むと、なるほど確かに変な絵だ。
台に乗った狐。井戸の上に乗った鍬。
木の上に寝てる人……。
そんな不思議な絵が一枚の紙にところせましと描かれている。
「それは、判じ絵よ」
おますちゃんが得意げな顔をして教えてくれた。
「謎かけなのよ。台の上の狐、これはダイコンよ。
ほら、狐は「コン」と鳴くでしょう?
井戸の上の鍬、これはクワイ。
木の上に寝てる人は、となりに「゛」がついてる。これはネギよ」
「はあ……なるほど。よくできたものね」
言われてみれば、右上に『青物つくしはんじもの』と書かれてある。
「おもしろいわね、ひとつ買ってみようかしら」
私が言うと、おさきちゃんがそれを止めた。
「ばかね、よしなさいよ。それは町方の娯楽でしょう?
そんなの買って行ったら、ご両親に叱られるわよ」
武家の人間にはいくつかの決まり事があり、厳しい掟としつけに縛られている。
武士たるものは常に礼儀正しく、良識と品位を兼ね備えていなければならない。
自分を律し、技量を高め、ただひたすら忠勤に励む。
道楽なんかに決して目を向けない。
それが帯刀を許された者―――自分に与えられた身分への誇りだからだ。
だから、武士は町方や農村の行事に参加することはできない。
あんなに彼岸獅子に熱狂的な弥太之進たちも、
農村の行事の獅子躍りに指をくわえて見てるだけだ。
町人達や村人達のほうが、世の楽しみをたくさん知っているように思えた。
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