この空を羽ばたく鳥のように。
参詣を終えて屋敷に戻った私は、とにもかくにも鳥飴を待ち侘びていた。
いったい喜代美は、どんな顔して飴を買うのかしらと思うと、抑えていても苦笑が浮かんでくる。
今夜はご馳走だ。夕餉の支度を手伝いながら、あわただしく土間と板間を行き来する私を、おたかが浮かない顔で呼びにきた。
「さよりお嬢さま。お客さまです」
「え?私に?」
こっそり耳打ちするように言われ、怪訝な顔になる。
おたかも招かざる客が来たというような面持ちで「こちらです」と促した。
たすきと前掛けを取り払い勝手口からそっと出て、おたかに導かれるようについてゆくと、玄関の脇に佇むお客人の姿が見えた。
若い侍―――八郎さまだ。
「八郎さま……」
「お忙しいところ、お呼び立てして申し訳ありません」
驚く私に、八郎さまは深々と頭を下げた。
「おたか、私の代わりに台所を手伝って」
私が指示すると、八郎さまに引き合わせたおたかは、何か言いたげな顔をしながらもお辞儀をするとすぐに奥へ引き返す。
最近 喜代美の不在のおりに、頻繁に顔を出す八郎さまを不審がっているのだ。
「おたかと申すのですか。
どうやら私は、あの女中に嫌われているようだ」
八郎さまは苦笑する。
私はあわてて頭を下げた。
「めっ……滅相もございません!ご無礼があったらお許しを!あとでよく叱っておきます!」
「ああ、いいんですよ。お気になさらないで下さい」
気分を害することなくおっしゃる八郎さまに、救われた気がして胸を撫で下ろす。
けれどすっかり日も暮れ、玄関に下げた提灯だけが辺りを照らすような場所で、ふたりきりにされた私は落ち着かない。
もうすぐ喜代美が帰ってくるのに。
こんな暗がりに身を隠すような形で、八郎さまと一緒にいるところを見られたら何と思われるだろう。
※耳打ち……相手の耳もとに口を寄せて、こっそりと話すこと。
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