この空を羽ばたく鳥のように。
そんなことを心配する私の様子を見て、八郎さまも困ったような顔をされた。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。すぐに済みますから」
そうおっしゃって、八郎さまは懐から何かを取り出す。
懐紙を開かれあらわれたそれは、つややかな黒漆地にリンドウが沈金で描かれている見事な櫛だった。
「これを届けに参っただけです。あなたに似合うと思って……つい買ってしまいました」
私はひどく驚いた。
「い……いただけません!こんな高価なもの!」
あわてて両手を突き出すと、八郎さまはさらに困ったような、悲しそうな顔をする。
「そう申されましても、もう買い求めてしまったものですし、行くあてがなくてはこの櫛もあわれです。
これは、先日のお礼ということで……黙って受け取っていただけませんか」
「………」
返事ができない。
いや、受け取れない。
先日は憂いを抱えていた八郎さまを、ただ励ましただけのことだし、こんな高価なものいただけるものじゃない。
それに、八郎さまがこの櫛を贈る意味に薄々気づいているから、なおのこと受け取りたくなかった。
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