この空を羽ばたく鳥のように。
「ああ、思った通りだ。よく似合います」
「……!」
穏やかな声で微笑む八郎さまに、言葉を詰まらせ怯えた目を向ける。
情けないけれど、すぐに突き返す勇気がなかった。
そんな私を、彼の腕がすっと包み込む。
「……!!」
八郎さまは私の身体を強く引き寄せると、ご自分の胸に抱きすくめた。
あまりに突然で、気が動転する。
「な、何を……!!」
ぞわりと悪寒がしてあわてて抗うけれど、女の弱い膂力では到底払いのけられるはずがなく、この状況をどうにかできる訳もない。
「は……離してください!!」
声を震わせて言うけれど、八郎さまは力で敵わない私を、獲物を捕まえた捕食者のように見下ろすだけ。
彼が耳元でささやいた。
「――――抱きしめると、香りがいっそう強まりますね。よい匂いだ」
「なっ……!」
八郎さまはうっすら笑うと、ゆっくりと味わうように私の着物に移った香りを嗅いだ。
いつも帯に挟めている匂袋。
かつて八郎さまは、これを私の香りだとおっしゃった。
カッと顔が熱くなる。
辱しめられているようで、くやしさが込みあげる。
それでもがっちりと捕まえられてどうしようもできない私に、さらに八郎さまは少し身体を離して覗きこむように顔を近づけてきた。
これ以上何をされるのかと背筋が凍りつく。
あまりのことに耐えかねて、目をつぶり叫んでいた。
「いやっ……喜代美……っ!!」
思わず喜代美の名を口にすると、八郎さまの動きがピタリと止まる。
今までびくともしなかった腕から、みるみる力が抜けていった。
※膂力……腕などの筋肉の力。腕力。
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