この空を羽ばたく鳥のように。
「なぜ八郎どのはこんなことをなさるのかしら」
みどり姉さまは落胆したように不満をこぼすと、もう一度深くため息をついた。
そして苦々しい物言いでおっしゃる。
「こんなことを言うのはさよりに酷かもしれないけれど、八郎どのを想うのはよしなさい」
「―――えっ?」
「八郎どのを、好きにならないで」
きっぱりとした口調で、みどり姉さまは私を見据えた。
「ど……どういうことですか?」
当惑しながらも訊ねると、みどり姉さまは目を伏せる。
「八郎どのに心を寄せてもムダだからよ」
「え……」
「あの方は次男よ。家督を譲り受けられ、妻を娶れる訳ではないの。想いは叶わないわ」
――――今の言い回しには覚えがあった。
ああ そうだ。彼岸獅子を見に行ったおり、おさきちゃんの弟君を恋慕うおゆきちゃんを見て、同じように私が言ったのだった。
みどり姉さまは私に、報われない恋をして悲しい思いをさせたくないと警告しているのだろうか。
「……とにかくお願いよ」
何も答えられない私に、みどり姉さまはもう一度念を押して踵を返した。
――――『想いは叶わない』。
私がおゆきちゃんに対して抱いた言葉。
それを自分に重ねてみる。
ああ……そうか。
私は「弟」を好きになってしまったんだ………。
※落胆……期待どおりにならなくて、がっかりすること。失望すること。
※当惑……どう対処したらよいかわからず、とまどい迷うこと。
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