この空を羽ばたく鳥のように。
ほどなくして、喜代美が帰ってきた。
喜代美は屋敷に戻るとすぐ私を探して台所にやってくる。
そうして板間で料理を盛りつける私の姿を見つけて、満面の笑顔を浮かべた。
「さより姉上!ただいま戻りました!あの……」
「あ……喜代美おかえり。ごめん、今 忙しいからあとでね」
目の前まで駆け寄り袂を探る彼に、目をそらしたまま応えると、盛りつけ終えた膳を運んでそれとなく離れる。
不思議そうな顔で立ち尽くす喜代美に、母上が「夕餉の準備ができたからお父上を呼んできて」と声をかけていた。
こんな気鬱な思いを抱えながら、喜代美に笑顔を向けることなんてできない。
夕餉を済ませたあとも、なんとなく顔を合わせづらくて、食後の後片づけやら何やら忙しさを理由に彼を避けていた。
八郎さまのことがあって、気づきたくなかった喜代美への想いがはっきりと意識されて、
面映ゆくて……後ろめたくて、まともに顔が見られない。
※気鬱……気分がふさぐこと。
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