この空を羽ばたく鳥のように。
祭り囃子は夜まで続く。
各家ではいっせいに提灯や行灯を掲げ、いつもはひっそりしている夜の城下町も、今夜はとても明るい。
その明るさに圧倒されて、暗闇に身をひそめながらも、星は遠慮がちに輝いている。
目を凝らさないと見えないほどの、小さく小さく瞬く星たち。
縁側に腰掛け、秋を感じる涼しい夜風を受けながら、
私は明々と照らされた城下町の夜空からそれらの瞬きを探していた。
ここからでは、あるかなきかの かすかな光り。
私の気持ちも、そんなものならよかったのに。
その存在さえ気づかないような、小さな想いのままだったら、ずっと知ることなくいられたのに。
どうして私は、こんな卑しい想いに気づいてしまったのだろう。
喜代美に「弟」以上の気持ちを持つなんて………。
(なんだか今日はいろんなことがありすぎた……)
けれど、八郎さまに抱きしめられたことよりも、
みどり姉さまが申された言葉よりも、
自分の気持ちにはっきりと気づいてしまったことが一番の衝撃だった。
喜代美が私のことで一生懸命になって笑ってくれるたび、
その笑顔が深く胸に焼きついて、
いつのまにかその存在が 私の心のほとんどを占めていた。
私にとって、誰よりも必要な存在になっていた。
みどり姉さまが危ぶむことなど、杞憂にすぎない。
だって私にとって八郎さまは、そんな存在ではないもの。
けれど「弟」に想いを寄せるのも、また問題で……。
目を伏せて視線を落とすと、手の中でもてあましていた櫛を見つめる。
私に櫛を与えようとなさり、無理やり身体を抱き寄せた八郎さま。
私は自分でも気づかぬうちに、八郎さまに気を持たせるような振る舞いをしていたのだろうか。
いいえ。きっと八郎さまは喜代美に心傾く私に気づいていたのだわ。
だから八郎さまは、あんな行為で私の心を正そうとなされたのかもしれない。
「弟を好きになっても報われることはない。
だからやめたほうがいい」と。
深いため息を落として、じっと櫛を見つめる。
抱き寄せられたことで、気が動転して返せなかった櫛。
今にして思えば、あの行為も櫛を返されないために気をそらせようとした策だったかもしれない。
※卑しい……品が悪い。慎みがなく下品だ。
※杞憂……する必要のない心配。取り越し苦労。
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