この空を羽ばたく鳥のように。




 「さあ、溶けて形が崩れてしまわないうちにどうぞ」



 喜代美に促され、私は油紙の上の鳥飴を見つめる。
 油紙にのせてある鳥飴は二本。


 「ひとつで充分だったのに……」

 「そういう訳には参りません。お礼なのにたった一本だなんて、私の気が済みません」



 喜代美は生真面目な顔で答える。
 鳥飴に納得のいかなかった彼は、せめてもの気持ちで数を増やしたのだろう。



 「それじゃあ……これはあんたにあげる」



 一本を取りあげ、喜代美に差し出す。

 彼は複雑な表情をする。

 思案したあげく数を増やして渡したものを、突っ返されたような心持ちになったのかもしれない。



 「ひとりで食べるより、喜代美と一緒に食べたいの。
 そのほうがきっと美味しいわ」



 微笑みながら言うと、気が進まないながらも喜代美は照れくさそうに鳥飴を受け取った。



 「……いただきます」との喜代美の言葉に、

 「どうぞ」と答える私。

 ふたりで一緒に口にする。



 子供じゃないけれど、大人にもなりきれていない私達。

 そんな私達が飴をほおばる姿はなんだか可笑しくて、
 視線を合わせてお互い目を細めた。


 その甘さが、胸の奥深くまで染みわたる。


 今までの気鬱が嘘だったように、私の心には優しい甘さが広がっていた。



 「……鳥飴って、こんなに美味しかったっけ?」



 飴を見つめてつぶやくと、喜代美は不思議そうに眉を寄せる。



 「美味しいから、食べたいと望んだのではないのですか?」

 「ふふ、そうね。でも正直、こんなに美味しいと思わなかった」

 「ならば来年の祭礼にも、また鳥飴を買って参ります。
 そしたらまた、こうして一緒に食べましょう」



 いつもの喜代美らしい提案に、つい声をたてて笑ってしまう。



 「ふふっ、なんだか子供みたい」

 「また約束が増えましたね。姉上、楽しみにしていて下さいよ」



 喜代美も無邪気に笑った。




 喜代美と叶える約束がこの先の未来に増えるたび、
 その時までは一緒にいられるんだと嬉しくなる。


 口の中でほろほろと溶けてゆく飴の甘さと来年の楽しみに、いつのまにか私の心は、静かな幸せに満たされていた。


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