この空を羽ばたく鳥のように。
そんななか、津川家から金吾さま上洛の際の餞別を届けに、私は源太を伴い本四之丁の喜代美のご実家に伺うことになった。
高橋家に着くと、出迎えて下さったのはえつ子さま。
「まあまあ、わざわざありがとうございます」
式台に手をつかえ、にっこり笑って応対して下さる。
金吾さまは親戚に挨拶まわりをされていてお留守。
八郎さまはまだ日新館からお戻りでない。
なんとなくおふた方に会うのを避けたかった私は、正直 胸を撫で下ろす思いだった。
「金吾にはあとでお礼に伺わせます。津川さまに宜しくお伝え下さいましね」
「かしこまりました」
えつ子さまは私を見つめて目を細めた。
「さよりさん……喜代美をくれぐれもよろしくお願いします」
「?……はい」
えつ子さまの含みある言葉に違和感を覚えながらも、
緊張していた私はお届けものを渡すと、頭を下げて早々に屋敷をあとにした。
高橋家の門を出ると、つと足が止まる。
女中を従えてこちらに向かってくる女人に視線が止まったからだ。
その人は自身の屋敷に帰って来たところで、彼女もまたこちらに気づくと、あからさまに険のある視線を投げる。
けれどそれを乱暴にそらすと、さっさと隣家の門をくぐった。
「―――待って、早苗さん!」
消え去ろうとする背中に、急いで名を呼ぶ。
呼び止められた早苗さんは再び険のあるまなざしをこちらに向けた。
その敵意丸出しの視線に、戸惑いながらも言葉を繋ぐ。
「少し……話したいことがあるの」
彼女は否とも応とも言わずその場に立ち止まったまま。
話を聞いてくれるんだと勝手に解釈した私は、後ろに伴っていた源太を振り返った。
「源太。先に屋敷に戻っていなさい」
「ですが、お嬢さま……」
「いいから。私はひとりで帰れるわ」
私の指示にしぶしぶ従い、源太は頭を下げたあと米代へとひとり帰っていった。
それを見送ってから、早苗さんに向き直る。
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