この空を羽ばたく鳥のように。
喜代美と自分を比べて、負けたと感じた時はいつもこうして棒を振るった。
喜代美が日新館で賞賜を授けられるたび、
細やかな気遣いや優しさを見せつけられるたび。
すべてに於いて、私が彼より勝るものなんて何ひとつない。
けれどそれはいつも己の未熟さゆえなのだからしかたないという、不甲斐ない自分に対しての苛立ちからのものだった。
けど、今回だけは違う。
私が今、こんなにくやしくて涙が出そうなのは、全部ぜんぶ喜代美のせいだ。
「うあああ―――っ!!」
棒を振りながら放つ私の気合いは、聞く人にとっては眉をひそめたくなるものだったかもしれない。
私の何もかもを凌駕して、家督の座を手にしようとしている喜代美が、臆病者の謗りを受けている。
それがくやしくて腹立たしくて、その怒りをどこにぶつけたらいいのかわからなくてあげている悲鳴。
「きええっ!!」
振り向きざま棒を横に薙ぎ払った私の視界に、ふいに人の影が映った。
はっとして、息を呑む。
「お見事ですね。さすがは姉上」
いつのまにか中庭を囲んだ縁側の片隅に、喜代美が微笑んで立っていた。
※凌駕……他のものをしのいで、その上に出ること。
※謗り……人のことを悪くいうこと。非難すること。また、その言葉。
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