この空を羽ばたく鳥のように。




 喜代美が私の夫になる……?

 どうして早苗さんがそんなことを?



 「わ……私は何も知らないわ?なのになぜ、早苗さんがそんなことを?
 それに私は、本当にあなたと喜代美の仲を応援して……」



 衝撃的な言葉に激しく心揺さぶられながらも、悪意などないと訴えたつもりだが、早苗さんは鼻先で笑い飛ばすだけ。



 「まあ、そらぞらしい事をおっしゃいますのね。
 高橋家では皆さまご存じですのに」

 「え……」



 そんなこと、初耳だ。



 「えつ子さまは私に、こう仰せになられましたわ。
 “喜代美のことは忘れて、よき縁をお待ちなさい”と。
 えつ子さまはなぜか、今年の春以来さよりさまをいたくお気に召したご様子でしたもの。
 いったいどういう手管(てくだ)で、えつ子さまに取り入ったのか教えていただきたいほどですわ」

 「手管なんて……私は別に何も」

 「嘘おっしゃいますな」



 早苗さんは厳しい目と皮肉めいた笑いを浮かべ、鋭い言葉で詰め寄る。



 「本当よ。お願い信じて、私は何も知らないし、何もしてないわ」



 私は何も知らない。――――なら、喜代美は?



 「き……喜代美は?喜代美はこのことを知ってるの?」



 私が問い返すと、早苗さんの鋭かったまなざしが潤んだように滲む。



 「そんなこと、喜代美さまはとっくにご承知のはずです。
 高橋家ではすでにお認めになられたお話なのですから。
 ですから私にもよそよそしくなられたのです。
 いずれ津川家の当主となられるために、喜代美さまはあなたさまを妻にすることを選んだのですから……!」



 言いながら次第にうつむき、大粒の涙をこぼす彼女を見て、ひどく胸が痛んだ。





 では喜代美は……津川家の家督を継ぐために、
 想いを重ね合わせた早苗さんをあきらめ、私を選ぶ道を取ったというの……?










 ※手管(てくだ)……人をだまし、うまくあやつる手段。


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