この空を羽ばたく鳥のように。




 はっきりと目が覚めたようだった。


 喜代美は……喜代美は、心の底から私の幸せを願っている。



 痛みが胸を突いた。



 言葉を失う私を置いて、喜代美はおもむろに立ち上がった。



 「父上に進言する時機は、姉上にお任せします。その時は私にもお声掛け下さい」



 そう言って自室を出ていこうとする彼に、私はあわてて追いすがった。



 「ちょっと待ってよ!そんなふうに簡単に結論づけてしまわないで!
 そんなことしたら、あんたの今までがすべて無になってしまうのよ!?」



 よろけるように立ち上がると彼の腕にしがみつく。



 「私のことなんかいいから、あんたは自分が幸せになることを考えてよ!自分の幸せを真っ先に考えてよ!!」

 「私は充分、幸せですよ」



 その言葉に振り仰いだ私に目を向け、喜代美は穏やかに笑う。



 「私はこの家に来れて幸せでした。その思いは、実家(さと)に下がっても消えることはありません」

 「ダメっ!! そんなの絶対ダメ!!」



 泣きそうな声で、なおも腕にしがみついたまま食い下がると、喜代美は困ったように眉を下げた。



 「……先に申したとおり、まこと父上から何のお言葉もないのです。
 もしかしたら父上も、私に家督を継がせることをためらっておられるのかもしれませんね。
 ですからあなたが兄を選ぶのは正しいことなのです」



 自嘲気味に言うと、腕にしがみついた手をふっとはずされる。



 その素っ気ない態度に、私の心は冬の木枯らしに吹き抜かれたように、いっきにぬくもりを失った。



 背を向けて立ち去る喜代美をなおも追うことができず、
 ただそこに立ち尽くすしかなかった。



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