この空を羽ばたく鳥のように。
どうして私は 正直に言えなかったのだろう。
誰よりもそばにいたいのに。
ともに家を守り立てようと決めた相手だったのに。
つまらぬ意地を張って、とても大切なものを失ってしまった。
好きな人の心を 失ってしまった。
喜代美―――――。
失意に打ちひしがれて、裏庭の縁側に腰を下ろし、畑に目を遣りながらぼんやりしていた。
短い秋が終わりを告げるなか、畑には大根の葉が青々と伸びている。
隣家との境の板塀には、ぶら下がるようにうらなりの小さなかぼちゃが、まだいくつか実を残していた。
申し訳ないけど、正直言ってもう早苗さんどころじゃなかった。
喜代美は家督をあきらめようとしている。
私のために。
(――――父上はなぜ、何も仰せにならないのだろう)
私には、何も分からない。
私達の婚姻は、すでに喜代美の実家と話がついていたことなのだろうか?
だから私は、十七になっても縁談のひとつも入ってこないの?
考えを巡らせてみても、何ひとつ答えに思い至ることはできない。
「……さより?」
ふいに呼びかけられたが、振り返る気になれなかった。
声を聞いただけで、縁を渡ってきたのがみどり姉さまだとわかったから。
「どうしたの?元気ないわね」
優しく訊ねて笑いかけると、みどり姉さまはとなりに腰掛ける。それでも畑に視線を向けたまま応じない私に、姉さまも同じように畑に視線を転じて言葉を落とした。
「先ほど喜代美さんも、なんだか思い詰めたような面持ちをして外へ出かけていったけど」
「………」
「喜代美さんと何かあった?」
「……みどり姉さまは、喜代美が私の婿として養子に迎えられたことをご存じだったのね」
私は考えていたことを口にした。
「だから八郎さまを好きになってはいけないと釘を刺した。そうでしょう?」
※うらなり……ウリやカボチャなどで、つるの先のほうに遅れて実がなること。また、その実。
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