この空を羽ばたく鳥のように。




 みどり姉さまは軽い驚きをみせてこちらを向いた。
 私もその視線を受けとめ、答えを待つ。



 「どうして それを……」

 「皆 知っていたわ。私だけが知らなかった」

 「………」

 「どうして何もおっしゃって下さらなかったの」



 非難めいた口調で問うと、姉さまはしばらく黙したあと静かにため息を落とした。



 「さよりは当初、養子を迎えることにひどく腹を立てていたではないの。
 父上が甘やかしてお育てになられたから、聞き分けの悪い娘に育ったと、母上が嘆いていたわ」



 つい口を尖らす。
 でも もっともなので口は挟まない。



 「お前が聞く耳を持たなかったから、父上は様子を見ることになされたのよ。
 でも婚姻の話は、そのあと立ち消えになったように父上も母上も口になさらなくなった。
 ……けれど喜代美さんは、父上が何も仰せでなくとも、きっともう心を決めていたのね」



 姉さまは一度言葉を区切ると、喜代美の思いに胸を痛める私をじろりと睨む。



 「気づかなかったのは、さよりが鈍いからよ。
 世間から見れば、年の近いふたりの婚姻は当然の流れよ?」



 その言葉に、うろたえて反論する。



 「だ……だって、養子を迎えたら、私はもうお払い箱なんだと思って……」

 「ばかね」



 みどり姉さまは、優しく笑った。



 「そんなはずないでしょう?
 喜代美さんは誰よりお前を必要としているのに」






 ―――『私を必要としてくれますか?』―――







 突如 思い出した、喜代美の言葉。


 以前 喜代美は、哀しい瞳で私に問うた。
 そして私に「必要だ」と言われて、安心したように笑った。



 あの時の喜代美の笑顔は、今も深く胸に焼きついている。



 ああ あの時、喜代美が私に望んでいたのは、家督を継ぐことを認めてほしかったんじゃない。

 私の伴侶として、末永く寄り添える相手として認めてもらいたかったんだ……。





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