この空を羽ばたく鳥のように。
冷静に考えてみれば、私より先に戻ったのだから喜代美が屋敷にいるのは当たり前だ。
けれどこんなふうに稽古中に声をかけられたのは初めてで、自分でも気づかずに込み上げていた涙がぽろりと落ちた。
「……姉上?泣いておられるのですか?」
喜代美は私の異変に気づくと、瞬時に笑みを消す。
「……これはっ、別に……っ!!」
あわてて顔を背けて、手の甲でごしごし顔をこする。
(なんて失態!こいつに涙を見られたなんて!)
泣き顔なんか見られたくないのに、喜代美は裸足のまま ためらいもなく中庭に降り立ち、
私のそばまで足早に寄ると顔をこすっていた手を取りあげた。
「あまりこすりすぎると、あとで腫れますよ。
いったい、何があったのですか」
私を心配する表情で、優しく訊ねてくる。
手を取られても顔を背けてうつむく私を、覗きこむように高い身長をくの字に曲げる。
「私でよかったら、話して下さい。少しは気分が晴れるかもしれません」
喜代美はいつもそう。
いつも家族みんなに優しい。
こんなひねくれた私にも、他の家族と変わらず常に優しい態度で接する。
「さより姉上?」
私には それが 腹立たしい。
.